転生したのに0レベル
〜チートがもらえなかったので、のんびり暮らします〜
183 そっか、大きいからいいって訳じゃないんだね
「いつもの事と言えなくは無いですが、今回も厄介な物を作りましたな」
「はぁ」
マヨネーズを作ってから数日たったある日、お爺さん司祭様が僕のお家に来て、お父さんにこんな事を言ったんだ。
何でこんな事になってるのかって言うと、僕んちってみんながパンケーキを食べに来るよね? その時に来た人がマヨネーズに興味を持って一口食べたんだけど、そしたら凄く美味しいって。
でね、その人がマヨネーズを欲しいって言うもんだからちょびっとだけあげたんだけど、そしたらその人が他の人たちにも話しちゃっったんだ。
でも、村の人たち全部にあげられるほど無いし、作ろうにも卵はともかくお酢や油はこの村には無いんからイーノックカウまで買いに行こうって話になったんだけど、それを聞いた司祭様がダメだよって言ったんだってさ。
それは何でかって言うと、僕が作ったマヨネーズは危険だからなんだって。
だからそれをお父さんたちに話すために、司祭様はわざわざ僕んちまで来たんだってさ。
「でも、危険と言われても私たちはルディーンが作ったマヨネーズを毎日食べてますけど、特に体は何とも無いですよ」
「それは解りますよ。何せルディーン君が作っているのですから」
お父さんにそう言われたお爺さん司祭様は、僕を見ながらそう言ったんだ。
普通はね、大人の人たちがお話をする時は僕みたいな子供は別の場所に生かされるんだけど、今回はマヨネーズを作ってるのが僕って事でお母さんが一緒に聞きなさいって。
何でかって言うと、お父さんやお母さんだけだと解んない事があるかもしれないからなんだってさ。
「ルディーンが作ってるから、ですか?」
「うむ。これを説明するにはまず、ルディーン君がマヨネーズと呼んでいる卵のビネガーソースの事を先に話した方がよいじゃろうて。実はな、この卵のビネガーソースはお貴族様の間ではかなり人気があるのだが、作れる人が少ないから幻のソースって言われてるのじゃよ」
「あっ、知ってる! ロルフさんがそう言ってた」
「おお、そう言えばあの爺さんも自分ちの料理人が作れるのが自慢とか言ってたなぁ」
僕は魔道泡だて器で作るからいいけど、普通の人は長い間ずっと手早く泡立て続けるのが難しいからって誰でも作れる訳じゃないよって言ってたんだよね。
でもさ、それが何でマヨネーズが危ないって話になるんだろう?
「ほう。卵のビネガーソースを作れるほどの料理人を囲っている物と知り合いじゃったか。ならば余計にこのマヨネーズと言うソースが危険であるという認識は薄いであろうな」
僕が作ったのだけじゃなく、他の人が作ったのまで食べた事があるなら危ないなんて思わなくても仕方ないって。
でもね、それは間違いなんだよって司祭様は言うんだ。
と言うのも、この卵のビネガーソースを食べてお腹を壊すお貴族様が、毎年何人も出てるからなんだってさ。
「なんで? マヨネーズにはお酢が入ってるし、食べてお腹を壊すなんて事無いんじゃないの?」
「それはじゃな、悪くなった卵を使う者が毎年多く出るからなのじゃよ」
そっか! さっき司祭様が何で僕が作ったものだから安全なんだよって言ったのか解っちゃった。
そうだよね。マヨネーズは生卵を使って作るんだもん。
いくらお酢を使ってるって言ったって、その卵をちゃんと調べずに使ったら、お腹を壊す人が出てきてもおかしくないよね。
「ルディーン君は錬金術を使えるからのぉ。じゃからマヨネーズとやらを作る時は、卵を解析で悪くなっていないか調べておるのではないか?」
「うん。ちゃんと調べてるよ。もし悪くなってたら、お腹が痛くなっちゃうもん」
「そうじゃろう、そうじゃろう。じゃがな、全ての者がそうであるとは限らないのじゃよ」
お爺さん司祭様が言うには、お貴族様の中にはそう言うのを調べずにマヨネーズを作っちゃう人がいるんだって。
「男爵以上の貴族ならば食料品の解析をする錬金術師を雇って毎日の食事を調べさせておる。じゃがな、そのような錬金術師を雇うにはかなりのお金を必要とするからのぉ。それ以下の騎士爵や準男爵などは、パーティーを主催する時に臨時で雇いはするが、それ以外の時はいちいち自分たちが食べるものの解析はしておらぬのが実情じゃ」
「なるほど。では先ほどマヨネーズを食べてお腹を壊す貴族が毎年出るというのは」
「うむ。そのような下位の貴族たちなのじゃよ」
確かにずっと卵をかき回すのは大変だからこれを作れる料理人はそんなに居ないらしいんだけど、ちょっとくらい油が分離しててもいいって言うのなら力自慢の兵士さんにやってもらえば無理やり作る事ができちゃうんだって。
だから、上位貴族のパーティーで食べたマヨネーズをどうしても食べたいって思ったそういう人たちが、卵をよく調べずに作ってお腹を壊すんだってさ。
「レシピを手に入れるだけならいくら高くとも一度金を出せばよいだけじゃから、そのような者たちでも手に入れる事はできる。じゃからと言って作るたびに錬金術師に館まできてもらうほどの金は無いからこの様な事が起こっておると言う訳じゃ」
「その点、うちだとルディーンが全てやってくれるから、安全にマヨネーズが食べられるって事なんですね」
前世の病院ってところで見てた番組でマヨネーズを一年間、窓の近くにおいてお日様の光を当てるって実験をしてたんだけど、調べてみたら全然悪くなってなかったって言ってたもん。
作る時にちゃんと鑑定解析で調べとけば、お父さんが言う通り僕が作ったマヨネーズは絶対に安全だよね。
「うむ。じゃがのぉ、もし村中でマヨネーズを作り始めたらどうなると思う?」
「あっ!」
グランリルの村で鑑定解析や解析が使えるのは僕だけだ。
って事は、他の人も作り始めちゃったら絶対にお腹を壊す人が出てきちゃうよね。
「御察しの通りじゃよ。じゃから、厄介な物を作ったと言ったのじゃ」
「そうですよねぇ……」
「おまけにルディーン君はまだ子供であるにもかかわらず、多くの村の仕事を担当しておるじゃろう。それだけにこれ以上新たな仕事を押し付ける訳にもいかん」
マヨネーズ、とっても美味しいもん。なのに、みんなが作ると危ないからダメだよって流石に言いにくい。
でも、だったら僕がみんなの分も作ればいいかって言うと、そういうわけにも行かないって言うんだ。
だってこの村、小さいって言ってもかなりの人が住んでるんだもん。
おやつのパンケーキくらいなら毎日食べるわけじゃないから僕が焼いても大丈夫だけど、作るのに手間がかかる上に人によっては毎日どころか毎食いっぱい食べるマヨネーズを僕が全部作るのなんて絶対無理だよね。
「じゃが、一度知ってしまったものをあきらめろと言っても、我慢が効くものでも無くてのぉ」
「何かいい案があるのですか?」
でもね、村のみんなはちょとずつでもいいからマヨネーズを食べたいって言うんだって。
だからさ、
「いい案と言うか、結局ルディーン君の仕事が増える事になってしまうのじゃが、今担当しておるパンケーキを焼く火を一日減らし、その日に幾つかの卵を解析してはもらえぬかと頼んで欲しいと言われたのじゃよ」
僕の仕事を増やせないなら、それを減らして変わりにやってもらったらいいんじゃ無いかって話になったんだって。
「解析には魔力を使うと言うからのぉ。やってもらうと言ってもそれほど多くのものを頼むつもりは無い。じゃが、ルディーン君に引き受けてもらえねば、誰かしらが挑戦して大事になってしまう事は目に見えておるんじゃ。じゃからのぉ、心苦しくはあるのじゃが、引き受けてはもらえぬか?」
「うん! いいよ」
そっか、僕が全部作んなきゃって思ってたけど、魔道泡だて器があれば誰でも作れるよね。
そんなにいっぱいの卵を調べる訳じゃないって言うのなら、パンケーキを焼くより楽だもん。
だったら、僕が鑑定解析で調べた卵で他の人にマヨネーズを作ってもらえるならその方が楽チンだ。
「いいのか? 魔力を使うって事は魔法と同じなんだろ?」
「うん! マヨネーズを作るまでやんなきゃって思ってたけど、それを他の人にやってもらえるんなら僕はいいよ」
「おお、引き受けてくれるか」
こうして僕の仕事に、卵を解析するってのが加わったんだ。
ただ、
「魔道泡だて器を作るのって、結構大変なんだよ」
「仕方ないだろ。マヨネーズを作るのに必要だって言うんだから」
僕は村の人たちが使うって言う、魔道泡だて器を作ってって言われちゃったんだ。
もう! 僕のお仕事はこれ以上増やさないって言ってたじゃないか!
でもこんな、いっぱい作るの大変だもん。
だったらさぁ、おっきな魔石を使って、いっぺんにいっぱいマヨネーズが作れる魔道泡だて器を作っちゃうかなぁ?
こう思った僕は、ブラックボアの魔石を使って寸胴鍋の中の卵をノートンさんに見せてもらったような形に作った4つの銅で作った器具が凄い速さでかき回す魔道泡だて器を作ったんだ。
でね、どうせだからって、中に油を入れたらしたの管を伝ってちょっとずつ寸胴の中に油が入るようにしたんだよね。
そのおかげでいっぱい魔道お泡だて器を作んなくても良くなったんだけど……。
「作るのは他の人がやるんじゃないの? マヨネーズ」
「ルディーンが大きな魔道泡だて器を作るからでしょ」
この魔道泡だて器、使った魔石が大きいからそのぶん動かすのに魔道リキッドがいっぱいいるんだよね。
それだとお金がいっぱい掛かるから僕が魔石に魔力を注ぐことになっちゃって、結局作ってる間はずっとそこに居なきゃいけなくなっちゃったんだ。
お母さんや近所のおばさんたちが卵を割ったりお酢を入れたりするのを見ながら、こんな事なら魔道泡だて器をいっぱいつくっときゃよかったなぁって、僕はちょっとしょんぼりしたんだ。